• 【第108回日本選手権10000mネット中継!】👟@第108回日本陸上競技選手権大会・10000m 生配信 2024 配信・生中継・生放送@~テレビ放送~2024年5月3日

    第108回日本陸上競技選手権大会・10000M丨日程・放送予定・ライブ配信・出場選手一覧
    【記録と数字で楽しむ第108回日本選手権10000m】女子:3連勝中の廣中を中心に「パリ行き切符」に挑む

    放送🔴👟📺👉第108回日本陸上競技選手権大会・10000M ライブ配信

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    5月3日(金/祝)、静岡県袋井市の小笠山総合運動公園静岡スタジアム(通称;エコパ)でパリ五輪代表選考会を兼ねた「第108回日本選手権・10000m」が行われる。同日の「静岡国際」が終了したあと、女子が19時30分、男子が20時10分のスタート。レースの模様は、19時25分から、NHKのEテレ(教育)で、生中継される。

    ここでは、現地観戦やTV観戦のお供に、「記録と数字で楽しむ第108回日本選手権・10000m」をお届けする。
    なお、2023年12月10日の日本選手権前に本コーナーで紹介した記事やデータと重複している部分もあるが、データは最新のものに更新した。

    ・記録や情報は、4月18日判明分。
    ・年齢は、2004年5月3日のもの。
    ・文中、敬称略。
    <エントリーリストはこちら>
    観戦チケット絶賛販売中!!
    ※リンク先は外部サイトの場合があります

    【女子】3連勝中の廣中を中心に「パリ行き切符」に挑む
    日本選手権の申込資格記録32分30秒00以内(または5000m15分40秒00以内)をクリアした15名がエントリー(うち1名はオープン参加の外国籍選手)し、8月のパリ五輪代表を目指してしのぎを削る。()


    ◆パリ五輪の内定条件
    五輪参加標準記録は「30分40秒00(10kmロードの記録も有効)」で有効期間は、2022年12月31日~2024年6月30日。出場枠(ターゲットナンバー)は「27」だ。

    今回の日本選手権での日本陸連の五輪代表内定条件は、
    A)2023ブダペスト世界選手権で8位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者で、2023年11月1日から2024年6月30日までに、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。

    B)第108回日本選手権の優勝者で、6月30日までに参加標準記録を満たした競技者。

    「A」の世界選手権8位以内の条件をクリアしているのは、ブダペストで7位だった廣中璃梨佳(JP日本郵政G)のみ。廣中は、24年6月30日までに30分40秒00をクリアすれば、今回の日本選手権での順位に関わらず内定となる。

    廣中以外の選手は、「今大会優勝で6月30日までに30分40秒00をクリア」が内定の条件だ。


    ◆WAランキングでの出場切符は、4月16日時点で残り4枚
    廣中および今回の優勝者が24年6月30日までに「30分40秒00」をクリアできなかった場合は、24年6月30日現在のパリ五輪に向けての1国3名以内の「ワールドランキング(WAランキング/Road to Paris 24)」で、出場枠の「27番目以内」に入ることが条件となる。

    4月16日現在の「Road to Paris 24」では、ロードを含めて参加標準記録突破者が15名(トラック11名、ロード4名。各国4番目以下の選手を含めると計39名)、「クロスカントリー枠(3レースの平均)」による有資格者が8名で計23名。ターゲットナンバー「27」の「WAランキング」による残り切符は、4枚しか残っていない。

    日本人には参加標準記録30分40秒00あるいはクロカン枠で資格をゲットしている選手はいない。「WAランキング(22年12月31日からの有効期間内の上位2レースの平均ポイント)」の順位は、以下のとおり。
    ・カッコ内は、自身の1番目と2番目のレースでのポイントを示す。

    【JAAF】
    が現時点でのターゲットナンバーの圏内。
    以下は、1国3名以内でカウントしていった時の「相当順位」だ。
    ・氏名の前の「×」は、今回の日本選手権不出場者。

    【JAAF】
    上記が、日本人でランクインしている選手。

    45位以降に日本人がずらりと並んでいるようにみえるが、実際には他国の4番目以下の選手をカウントしない「相当順位」で記載したのでこのようになる。有効期限内の上位2レースの平均ポイントによる実際の順位は、廣中8位、小海19位、五島23位、高島35位、林田75位、木村76位、川口79位、川村91位、矢田97位、山崎99位、村松105位、安藤107位、逸木111位、兼友114位という位置になる。

    パリ行き切符を確実に手にするには「30分40秒00」をクリアすることだが、そのハードルはなかなか高い。
    日本歴代でこれを上回ったことがあるのは、新谷仁美(積水化学)の日本記録(30.20.44/2020年12月4日)と歴代2位の廣中(30.39.71/2022年7月16日)の2回しかない。

    21年東京五輪、22年オレゴン、23年ブダペストの世界選手権での「WAランキング」によるボーダーラインの2レース平均ポイントは、1200ptあたりだったが、今回は現段階で1215ptにアップしている。

    パリに向けて、現在24番目の廣中が「1286pt」、25番目のイギリスの選手(自己ベスト30.35.93=2022年)が「1275pt」、26番目の小海が「1218pt」、27番目の五島が「1215pt」、28番目のフィンランドの選手(31.12.78=2023年)が「1201pt」、29番目のメキシコの選手(31.04.08=2023年)が「1199pt」、30番目相当の高島が「1190pt」だ。

    記録ポイントのみでの「1200pt」は「30分52秒48」、「1220pt」が「30分30秒51」、参加標準記録の「30分40秒00」は「1211pt」だ。31分00秒前後のレベルでの記録ポイントの差は、概ね「1秒1で1pt差」「11秒で10pt差」というところで、五島と28番目の選手との「14pt差」のタイム差は、概ね15秒5前後である。

    「WAランキング」のポイントは、「記録ポイント+順位ポイント」で算出される。
    「順位ポイント」は、大会のグレードによっていくつかに区分されているが、日本選手権のカテゴリーは「B」で、各順位のポイントは以下のとおりだ。

    よって、日本選手権では、ひとつでも上の順位でフィニッシュすることが「WAランキング」のポイントを稼ぐためには重要だ。1位と2位の順位ポイントの「10pt差」をタイムに換算すると約11秒差、1位と3位の「15pt差」は、16秒5くらいの差になる。ほとんど差がない胸差のほぼ同タイムでフィニッシュしても、WAランキングの順位ポイントでは、上記のようなタイム差がついたのと同じ扱いになるのだ。

    また、記録ポイントが「1160pt」の「31分36秒98」であっても、日本選手権でトップフィニッシュすれば順位ポイントの「60pt」が加算されるのでトータルは「1220pt」となり、2レース平均でのボーダーラインあたりのポイントを稼げることになる。

    このところの「WAランキング」のシステムでは、「27番目と28番目」のポイント差が、1点差とか同点での勝負になることもあり「0秒01差」が晴れの舞台に出場できるかどうかの明暗を分ける可能性もある。「WAランキング」のポイント(整数値)が同じ場合は、小数点以下での比較はせず、2レースのうちで最も高いポイントを獲得した選手を上位とする。2レースとも同得点の場合は、同順位となる。これらは、5試合の平均ポイントでランク付けする短距離種目なども同様である。10000mを走っての「0秒01差」が1ポイント差となるケースもあり、それが天国と地獄の分水嶺となるかもしれないのだ。

    上述のような状況からすると、参加標準記録未突破の海外選手を含めて6月30日までに新たに誰も「30分40秒00」をクリアできず「WAランキング(Road to Paris 24)」での争いとなった場合、廣中は安全圏といえる。

    小海が現在の廣中の2レース平均「1286pt」に並ぶには、今回の日本選手権で「1332pt」が必要だ。優勝して「60pt」が加わったとしても記録で「1272pt」が要求される。これに相当するタイムは「29分34秒21」で世界歴代7位相当。「パリ五輪メダル候補」のレベルである。

    ただし、先に紹介したボーダー付近の外国人選手3名のベストは30分35秒93~31分12秒78。日本の小海、五島、高島も30分50秒台のベストを持っているので、条件に恵まれれば、「30分40秒00」をクリアできる可能性は十分にある。よって、廣中としても「30分40秒00」をクリアして、即時内定を決めたいところだ。


    ◆至近9年間の日本選手権での入賞歴
    ・今回の出場者に限る。掲載順序は、直近年の順位順

    【JAAF】
    ・入賞歴なし(2023年の順位のみ記載)

    【JAAF】
    廣中が3連勝中。この種目での連覇は、5人。

    【JAAF】
    1988年5月12日生まれで35歳の高島由香(資生堂)は、上の表以外に14年にも7位に入賞している。日本選手権の10000mには11年が初出場(12着)、17年にも9着となっていて今回が8回目の出場となる。

    今回、4連覇を目指す廣中の10000mでの全成績は以下のとおり。

    <廣中璃梨佳の10000m全成績>
    ・記録の後ろの「◎」は、その時点での自己新

    【JAAF】
    ◆新谷仁美の日本記録(30.20.44)の時のペース
    20年12月4日の日本選手権(長居)で新谷仁美(積水化学)が30分20秒44の日本記録をマークした時の400m毎は下記のとおり。2000m手前まではチームメイトの佐藤早也伽が先導したが、下記はすべて新谷の通過タイムである。
    ・以下、筆者による非公式計時

    【JAAF】

    【JAAF】

    【JAAF】
    スタートからチームメイトの佐藤が引っ張ったが1000mからややペースダウン。それを感じ取って、1950m付近から新谷がトップに立って3000mまでを2分57秒0にペースを上げた。以後も1周を72~73秒台で刻み最終的には3位以下の選手を周回遅れにし、従来の日本記録(30分48秒89/渋井陽子/三井住友海上/2002.05.03)を一気に28秒45更新した。2020年の世界2位、この時点での世界歴代21位だった(24年4月18日現在、歴代40位)。


    ◆廣中璃梨佳の自己ベスト(30.39.71)の時の1000m毎
    2022年7月16日のオレゴン世界選手権で廣中が30分39秒71(12着)の自己ベストを出した時の1000m毎は、以下のとおり。通過記録の前のカッコ付き数字はその地点での通過順位を示す。

    【JAAF】
    今回、新谷の日本記録(30.20.44)を更新できれば万々歳ではあるが、なかなか高いハードルである。パリ五輪代表を目指す選手たちにとっては、まずは五輪参加標準記録「30分40秒00」をクリアすることが大きな目標であろう。その点で、廣中のベストはそのターゲットとピタリ同じで、参考になりそうだ。

    この時の廣中は世界の大舞台で5000mまでを3分03~04秒の安定したペースでトップを引いた。
    5000m過ぎに先頭を譲ったが、5000~6000mは集団のペースがダウン。廣中は7000mまでトップ集団に食らいついたが、そこからトップが1000m2分57~58秒にアップしたことで次第に離された。
    廣中は8000m~9000mに3分06秒52を要し、9000mでは11番目で先頭と12秒37差、8番目とも11秒37差となって入賞が厳しくなった。9600mでは19位の位置にいたが残り1周を踏ん張った。
    ラスト400m69秒29、最後の100mを16秒87でカバーして12着(30.39.71)でフィニッシュ。翌年の2023ブダペスト世界選手権の参加標準記録30分40秒00をギリギリのところでクリアしたのだった。

    この時の廣中は、「前半15分19秒28」に対し「後半15分20秒43」。その差は僅か1秒15しかなかった。
    新谷の日本記録(30.20.44)の時も「前半15分06秒8」に対し「後半15分13秒6」で落差は6秒8だった。

    これまでの世界や日本での様々な競技会で好記録が出た時のペースを調べると、前後半の落差が数秒、あるいは後半の方が速かったということが多い。
    「前半で貯金を作って……」とハイペースで突っ込むと、踏ん張りどころの6000mあたりから苦しくなって終盤に大きくペースダウンしてしまうというケースをよく見かける。そうなると、ラスト1000mや残り1周のスピードも上がらずに、結果的には、「前半の貯金」を大きく取り崩してしまい目標にほど遠い結果に終わってしまうことも多いようだ。

    レース当日の気象条件にもよるが、「30分40秒00」がターゲットであれば、そのイーブンペースは、1000m「3分04秒0」、400mならば「73秒6」だ。
    そこから大きく外れることなくスタートから安定したペースを刻み、苦しくなってくる6000mから8000m過ぎでペースダウンせずに踏ん張れるかどうかがポイントだろう。5~10秒くらいの「遅れ」は、残り1000mや400mの「最後の底力」のキックで、十分に取り戻せる可能性がある。

    5000m14分57秒63の資格記録でオープン参加のジェプングティチ・ジュディ(資生堂)は、23年12月10日の日本選手権(9000mで途中棄権)に続いての出場で自身3度目の10000m。23年7月8日に標高約1600mのナイロビでの世界選手権ケニア選考会の33分04秒20(12着)が初10000mでそれが自己ベスト。5000mのベストは、22年の14分50秒20。前回も日本人選手にとっての「いいペースメーカー役」を9000mまで果たした。

    「ペースメーカー」といえば、23年に続き導入されるのが、「電子ペーサー(ウェーブライト)」である。トラック内側の縁石のところに1m毎にLEDライトを設置し、設定したペースで発光していく機器だ。

    ライトは何色か(3~4色)に色分けができ、いくつかの目標記録別に点灯させることができる。
    今回の日本選手権での設定ペースは、この原稿の締め切り時点(4月21日)では明らかにされていないが、「日本記録の30分20秒」「パリ五輪参加標準記録の30分40秒」に設定される可能性が高く、その他にも2種類くらいのペースが設定されることになるだろう。


    ◆日本選手権での着順別最高記録

    【JAAF】
    トップと5着以下は20年。2~4着は23年のレベルが高かった。23年はトップ(30.55.29)からの4人が3秒54の間にフィニッシュラインになだれ込む大接戦だった。


    ◆2015年以降の世界大会の日本代表とその成績
    2015年以降の世界選手権と五輪の代表と本番での成績は以下のとおり。

    <至近7世界大会の代表と成績>
    「★」は、今回の日本選手権出場者。

    【JAAF】

    【JAAF】
    上記のとおり、今回の出場者で世界大会代表の経験があるのは、高島(15・16年)、廣中(21・22・23年)、五島(22・23年)の3人。
    8月のパリ五輪には、誰が出場してどんな結果を残すことになるか……。


    野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

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  • ((日本選手権 10000m配信👟)) 第108回日本陸上競技選手権大会10000m 放送・ライブ配信🎽テレビ放送・生中継・生放送2024年5月3日

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    5月3日(金/祝)、静岡県袋井市の小笠山総合運動公園静岡スタジアム(通称;エコパ)でパリ五輪代表選考会を兼ねた「第108回日本選手権・10000m」が行われる。同日の「静岡国際」が終了したあと、女子が19時30分、男子が20時10分のスタート。レースの模様は、19時25分から、NHKのEテレ(教育)で、生中継される。

    ここでは、現地観戦やTV観戦のお供に、「記録と数字で楽しむ第108回日本選手権・10000m」をお届けする。
    なお、2023年12月10日の日本選手権前に本コーナーで紹介した記事やデータと重複している部分もあるが、データは最新のものに更新した。

    ・記録や情報は、4月18日判明分。
    ・年齢は、2004年5月3日のもの。
    ・文中、敬称略。
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    【女子】3連勝中の廣中を中心に「パリ行き切符」に挑む
    日本選手権の申込資格記録32分30秒00以内(または5000m15分40秒00以内)をクリアした15名がエントリー(うち1名はオープン参加の外国籍選手)し、8月のパリ五輪代表を目指してしのぎを削る。()


    ◆パリ五輪の内定条件
    五輪参加標準記録は「30分40秒00(10kmロードの記録も有効)」で有効期間は、2022年12月31日~2024年6月30日。出場枠(ターゲットナンバー)は「27」だ。

    今回の日本選手権での日本陸連の五輪代表内定条件は、
    A)2023ブダペスト世界選手権で8位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者で、2023年11月1日から2024年6月30日までに、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。

    B)第108回日本選手権の優勝者で、6月30日までに参加標準記録を満たした競技者。

    「A」の世界選手権8位以内の条件をクリアしているのは、ブダペストで7位だった廣中璃梨佳(JP日本郵政G)のみ。廣中は、24年6月30日までに30分40秒00をクリアすれば、今回の日本選手権での順位に関わらず内定となる。

    廣中以外の選手は、「今大会優勝で6月30日までに30分40秒00をクリア」が内定の条件だ。


    ◆WAランキングでの出場切符は、4月16日時点で残り4枚
    廣中および今回の優勝者が24年6月30日までに「30分40秒00」をクリアできなかった場合は、24年6月30日現在のパリ五輪に向けての1国3名以内の「ワールドランキング(WAランキング/Road to Paris 24)」で、出場枠の「27番目以内」に入ることが条件となる。

    4月16日現在の「Road to Paris 24」では、ロードを含めて参加標準記録突破者が15名(トラック11名、ロード4名。各国4番目以下の選手を含めると計39名)、「クロスカントリー枠(3レースの平均)」による有資格者が8名で計23名。ターゲットナンバー「27」の「WAランキング」による残り切符は、4枚しか残っていない。

    日本人には参加標準記録30分40秒00あるいはクロカン枠で資格をゲットしている選手はいない。「WAランキング(22年12月31日からの有効期間内の上位2レースの平均ポイント)」の順位は、以下のとおり。
    ・カッコ内は、自身の1番目と2番目のレースでのポイントを示す。

    【JAAF】
    が現時点でのターゲットナンバーの圏内。
    以下は、1国3名以内でカウントしていった時の「相当順位」だ。
    ・氏名の前の「×」は、今回の日本選手権不出場者。

    【JAAF】
    上記が、日本人でランクインしている選手。

    45位以降に日本人がずらりと並んでいるようにみえるが、実際には他国の4番目以下の選手をカウントしない「相当順位」で記載したのでこのようになる。有効期限内の上位2レースの平均ポイントによる実際の順位は、廣中8位、小海19位、五島23位、高島35位、林田75位、木村76位、川口79位、川村91位、矢田97位、山崎99位、村松105位、安藤107位、逸木111位、兼友114位という位置になる。

    パリ行き切符を確実に手にするには「30分40秒00」をクリアすることだが、そのハードルはなかなか高い。
    日本歴代でこれを上回ったことがあるのは、新谷仁美(積水化学)の日本記録(30.20.44/2020年12月4日)と歴代2位の廣中(30.39.71/2022年7月16日)の2回しかない。

    21年東京五輪、22年オレゴン、23年ブダペストの世界選手権での「WAランキング」によるボーダーラインの2レース平均ポイントは、1200ptあたりだったが、今回は現段階で1215ptにアップしている。

    パリに向けて、現在24番目の廣中が「1286pt」、25番目のイギリスの選手(自己ベスト30.35.93=2022年)が「1275pt」、26番目の小海が「1218pt」、27番目の五島が「1215pt」、28番目のフィンランドの選手(31.12.78=2023年)が「1201pt」、29番目のメキシコの選手(31.04.08=2023年)が「1199pt」、30番目相当の高島が「1190pt」だ。

    記録ポイントのみでの「1200pt」は「30分52秒48」、「1220pt」が「30分30秒51」、参加標準記録の「30分40秒00」は「1211pt」だ。31分00秒前後のレベルでの記録ポイントの差は、概ね「1秒1で1pt差」「11秒で10pt差」というところで、五島と28番目の選手との「14pt差」のタイム差は、概ね15秒5前後である。

    「WAランキング」のポイントは、「記録ポイント+順位ポイント」で算出される。
    「順位ポイント」は、大会のグレードによっていくつかに区分されているが、日本選手権のカテゴリーは「B」で、各順位のポイントは以下のとおりだ。

    よって、日本選手権では、ひとつでも上の順位でフィニッシュすることが「WAランキング」のポイントを稼ぐためには重要だ。1位と2位の順位ポイントの「10pt差」をタイムに換算すると約11秒差、1位と3位の「15pt差」は、16秒5くらいの差になる。ほとんど差がない胸差のほぼ同タイムでフィニッシュしても、WAランキングの順位ポイントでは、上記のようなタイム差がついたのと同じ扱いになるのだ。

    また、記録ポイントが「1160pt」の「31分36秒98」であっても、日本選手権でトップフィニッシュすれば順位ポイントの「60pt」が加算されるのでトータルは「1220pt」となり、2レース平均でのボーダーラインあたりのポイントを稼げることになる。

    このところの「WAランキング」のシステムでは、「27番目と28番目」のポイント差が、1点差とか同点での勝負になることもあり「0秒01差」が晴れの舞台に出場できるかどうかの明暗を分ける可能性もある。「WAランキング」のポイント(整数値)が同じ場合は、小数点以下での比較はせず、2レースのうちで最も高いポイントを獲得した選手を上位とする。2レースとも同得点の場合は、同順位となる。これらは、5試合の平均ポイントでランク付けする短距離種目なども同様である。10000mを走っての「0秒01差」が1ポイント差となるケースもあり、それが天国と地獄の分水嶺となるかもしれないのだ。

    上述のような状況からすると、参加標準記録未突破の海外選手を含めて6月30日までに新たに誰も「30分40秒00」をクリアできず「WAランキング(Road to Paris 24)」での争いとなった場合、廣中は安全圏といえる。

    小海が現在の廣中の2レース平均「1286pt」に並ぶには、今回の日本選手権で「1332pt」が必要だ。優勝して「60pt」が加わったとしても記録で「1272pt」が要求される。これに相当するタイムは「29分34秒21」で世界歴代7位相当。「パリ五輪メダル候補」のレベルである。

    ただし、先に紹介したボーダー付近の外国人選手3名のベストは30分35秒93~31分12秒78。日本の小海、五島、高島も30分50秒台のベストを持っているので、条件に恵まれれば、「30分40秒00」をクリアできる可能性は十分にある。よって、廣中としても「30分40秒00」をクリアして、即時内定を決めたいところだ。


    ◆至近9年間の日本選手権での入賞歴
    ・今回の出場者に限る。掲載順序は、直近年の順位順

    【JAAF】
    ・入賞歴なし(2023年の順位のみ記載)

    【JAAF】
    廣中が3連勝中。この種目での連覇は、5人。

    【JAAF】
    1988年5月12日生まれで35歳の高島由香(資生堂)は、上の表以外に14年にも7位に入賞している。日本選手権の10000mには11年が初出場(12着)、17年にも9着となっていて今回が8回目の出場となる。

    今回、4連覇を目指す廣中の10000mでの全成績は以下のとおり。

    <廣中璃梨佳の10000m全成績>
    ・記録の後ろの「◎」は、その時点での自己新

    【JAAF】
    ◆新谷仁美の日本記録(30.20.44)の時のペース
    20年12月4日の日本選手権(長居)で新谷仁美(積水化学)が30分20秒44の日本記録をマークした時の400m毎は下記のとおり。2000m手前まではチームメイトの佐藤早也伽が先導したが、下記はすべて新谷の通過タイムである。
    ・以下、筆者による非公式計時

    【JAAF】

    【JAAF】

    【JAAF】
    スタートからチームメイトの佐藤が引っ張ったが1000mからややペースダウン。それを感じ取って、1950m付近から新谷がトップに立って3000mまでを2分57秒0にペースを上げた。以後も1周を72~73秒台で刻み最終的には3位以下の選手を周回遅れにし、従来の日本記録(30分48秒89/渋井陽子/三井住友海上/2002.05.03)を一気に28秒45更新した。2020年の世界2位、この時点での世界歴代21位だった(24年4月18日現在、歴代40位)。


    ◆廣中璃梨佳の自己ベスト(30.39.71)の時の1000m毎
    2022年7月16日のオレゴン世界選手権で廣中が30分39秒71(12着)の自己ベストを出した時の1000m毎は、以下のとおり。通過記録の前のカッコ付き数字はその地点での通過順位を示す。

    【JAAF】
    今回、新谷の日本記録(30.20.44)を更新できれば万々歳ではあるが、なかなか高いハードルである。パリ五輪代表を目指す選手たちにとっては、まずは五輪参加標準記録「30分40秒00」をクリアすることが大きな目標であろう。その点で、廣中のベストはそのターゲットとピタリ同じで、参考になりそうだ。

    この時の廣中は世界の大舞台で5000mまでを3分03~04秒の安定したペースでトップを引いた。
    5000m過ぎに先頭を譲ったが、5000~6000mは集団のペースがダウン。廣中は7000mまでトップ集団に食らいついたが、そこからトップが1000m2分57~58秒にアップしたことで次第に離された。
    廣中は8000m~9000mに3分06秒52を要し、9000mでは11番目で先頭と12秒37差、8番目とも11秒37差となって入賞が厳しくなった。9600mでは19位の位置にいたが残り1周を踏ん張った。
    ラスト400m69秒29、最後の100mを16秒87でカバーして12着(30.39.71)でフィニッシュ。翌年の2023ブダペスト世界選手権の参加標準記録30分40秒00をギリギリのところでクリアしたのだった。

    この時の廣中は、「前半15分19秒28」に対し「後半15分20秒43」。その差は僅か1秒15しかなかった。
    新谷の日本記録(30.20.44)の時も「前半15分06秒8」に対し「後半15分13秒6」で落差は6秒8だった。

    これまでの世界や日本での様々な競技会で好記録が出た時のペースを調べると、前後半の落差が数秒、あるいは後半の方が速かったということが多い。
    「前半で貯金を作って……」とハイペースで突っ込むと、踏ん張りどころの6000mあたりから苦しくなって終盤に大きくペースダウンしてしまうというケースをよく見かける。そうなると、ラスト1000mや残り1周のスピードも上がらずに、結果的には、「前半の貯金」を大きく取り崩してしまい目標にほど遠い結果に終わってしまうことも多いようだ。

    レース当日の気象条件にもよるが、「30分40秒00」がターゲットであれば、そのイーブンペースは、1000m「3分04秒0」、400mならば「73秒6」だ。
    そこから大きく外れることなくスタートから安定したペースを刻み、苦しくなってくる6000mから8000m過ぎでペースダウンせずに踏ん張れるかどうかがポイントだろう。5~10秒くらいの「遅れ」は、残り1000mや400mの「最後の底力」のキックで、十分に取り戻せる可能性がある。

    5000m14分57秒63の資格記録でオープン参加のジェプングティチ・ジュディ(資生堂)は、23年12月10日の日本選手権(9000mで途中棄権)に続いての出場で自身3度目の10000m。23年7月8日に標高約1600mのナイロビでの世界選手権ケニア選考会の33分04秒20(12着)が初10000mでそれが自己ベスト。5000mのベストは、22年の14分50秒20。前回も日本人選手にとっての「いいペースメーカー役」を9000mまで果たした。

    「ペースメーカー」といえば、23年に続き導入されるのが、「電子ペーサー(ウェーブライト)」である。トラック内側の縁石のところに1m毎にLEDライトを設置し、設定したペースで発光していく機器だ。

    ライトは何色か(3~4色)に色分けができ、いくつかの目標記録別に点灯させることができる。
    今回の日本選手権での設定ペースは、この原稿の締め切り時点(4月21日)では明らかにされていないが、「日本記録の30分20秒」「パリ五輪参加標準記録の30分40秒」に設定される可能性が高く、その他にも2種類くらいのペースが設定されることになるだろう。


    ◆日本選手権での着順別最高記録

    【JAAF】
    トップと5着以下は20年。2~4着は23年のレベルが高かった。23年はトップ(30.55.29)からの4人が3秒54の間にフィニッシュラインになだれ込む大接戦だった。


    ◆2015年以降の世界大会の日本代表とその成績
    2015年以降の世界選手権と五輪の代表と本番での成績は以下のとおり。

    <至近7世界大会の代表と成績>
    「★」は、今回の日本選手権出場者。

    【JAAF】

    【JAAF】
    上記のとおり、今回の出場者で世界大会代表の経験があるのは、高島(15・16年)、廣中(21・22・23年)、五島(22・23年)の3人。
    8月のパリ五輪には、誰が出場してどんな結果を残すことになるか……。


    野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

    応援メッセージキャンペーン実施中!

    【JAAF】
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    ※リンク先は外部サイトの場合があります

    【第108回日本選手権・10000m特設サイト】

  • (放送・配信) 第39回静岡国際陸上競技大会 ライブ放送・放送・テレビ放送・ライブ配信・生中継・生放送2024年5月3日

    【日本グランプリシリーズ】グレード1初戦・広島大会(織田記念)レポート
    日本グランプリシリーズ「第39回静岡国際陸上競技大会」への協賛について
    日本グランプリシリーズグレード1「第58回織田幹雄記念国際陸上競技大会」が4月29日、WA(ワールドアスレティックス)コンチネンタルツアーブロンズ大会を兼ねて、広島広域公園陸上競技場(ホットスタッフフィールド広島)において開催されました。

    TV中継🔴📺👟👉 第39回静岡国際陸上競技大会 2024 生中継

    TV中継🔴📺👟👉 第39回静岡国際陸上競技大会 2024 生中継

    悪天候となった昨年、一昨年に続いて、残念ながら今年もまた競技開始とともに雨粒が落ちてくる状況に。風が強まったり気温が上下動したりすることはなかったものの、終日、肌寒さを感じるコンディション下での戦いとなりました。グランプリ種目は男子7、女子6の計13種目が行われましたが、この影響もあって、パリオリンピック参加標準記録突破のアナウンスを聞くことは叶いませんでしたが、男女1500m、男子3000m障害物では大会新記録が誕生しました。

    三浦、“サンショー”で今季初戦
    五輪内定はならずも大会新で快勝

    【アフロスポーツ】
    この織田記念で、「パリオリンピック日本代表内定!」のアナウンスが流れる可能性がある唯一の種目として実施されたのが男子3000m障害物です。昨年のブダペスト世界選手権で6位入賞を果たした日本記録保持者(8分09秒91、2023年)の三浦龍司選手(SUBARU)がエントリー。日本陸連が定めた選考基準により、三浦選手は今年に入ってから参加標準記録を突破すれば、その時点でパリオリンピック日本代表に即時内定する条件の該当者となっています。朝からの雨模様は変わらなかったものの、スタート時刻の16時55分になっても気温は19.5℃、風の影響もほとんどないなかでのレース。8分15秒00という参加標準記録は、三浦選手の実力であれば十分にクリアが狙える水準とあって、日本国内におけるトラック&フィールド種目内定第1号誕生の期待を集めるなか号砲が鳴りました。

    レースは、スタート直後から三浦選手が飛び出し、2周目から先頭に立ったフィレモン・キプラガット選手(愛三工業)と上位争いを繰り広げていく展開に。1000mを2分47秒(速報値、以下同じ)で通過すると、残り3周の周回で、この2人に唯一ついていた新家裕太郎選手(愛三工業)が置き去りになると、以降は三浦選手とキプラガット選手のマッチレースとなりました。三浦選手がキプラガット選手に並びかけようとする場面もありながらも、2000mはキプラガット選手が前に出て5分36秒で通過し、その後もキプラガット選手のリードで残り1周を迎えます。そこで三浦選手がスピードを切り替えると、バックストレートでキプラガット選手を逆転、ホームストレートで突き放してフィニッシュ。参加標準記録の突破はならなかったものの8分22秒07の大会新記録で、今季の、さらには社会人となって最初の3000m障害物レースを、勝利でスタートさせました。

    【アフロスポーツ】
    三浦選手は、近年では金栗記念の1500mでトラックレースをシーズンインし、この織田記念では5000mに出場し、3000m障害物は5月に入ってから初戦を迎えるパターンが続いてきました。しかし、今年は5月10日に行われるダイヤモンドリーグドーハ大会に出場を予定していることもあり、「自分の勝負勘とかを、国内で試しておこう」という考えから、織田記念は3000m障害物を選択。レース後は、「優勝を目標にしていたので、勝つことができてよかった」と述べ、参加標準記録の突破については、「本腰を入れて(突破を)狙うというわけではなかったが、展開やコンディショニングによってはあるかもしれない」と考えていたことを明らかにしました。レースについては、「最初の1000(m)は余裕があったが、出力を上げたときに、伸びていく感覚がなかった」と振り返り、「(本来であれば、もっと行けるはずの)2000mを過ぎてから、キプラガット選手に苦戦したなという思いがある」とコメント。中盤で想定していた通りに、ペースを上げていけなかったことを課題とする一方で、「そこはレースをすることでスイッチが入ることもある」とも話し、「ここから、ラストのキレを出していけるようにしたい」と次戦を見据えました。

    次戦となるダイヤモンドリーグでは、「タイム(参加標準記録のクリア)を狙っていくのがメイン。(8分)15秒を出す走りができれば、順位もある程度ついてくると思う」と三浦選手。いよいよオリンピックに向けて、全開モードで臨んでいくことになります。

    このほか健闘が光ったのは、3位で続いた新家選手です。上位争いから後れてからもよく粘り、自身初の8分30秒切りとなる8分28秒54をマーク。8分33秒43でグランプリ初優勝を果たした4月20日の兵庫リレーカーニバルに続いて、自己記録を更新しました。

    活況続くスプリントハードル
    女子は田中が連覇、男子は村竹が社会人初戦を制す

    【アフロスポーツ】
    近年、天候にかかわらず好記録が誕生し、「織田記念の注目種目」という位置づけが、すっかり定着した感のある男女スプリントハードル。予選・決勝ともに向かい風基調のなかでのレースとなったこともあり、新記録誕生やオリンピック参加標準記録突破といった華やかな結果は出なかったものの、今年もレベルの高い勝負が繰り広げられました。

    女子100mハードルでは、予選を全体トップタイムとなる13秒07(-0.6)で通過していた田中佑美選手(富士通)が、向かい風0.1mの条件下となった決勝で、13秒00へとタイムを引き上げて優勝。初めて12秒台突入となった前回大会(12秒97、+0.6)からの2連覇となりました。
    「今シーズン国内初レースということで予選は緊張していた。しっかりとスタートから出て、しっかりと(インターバルランニングを)刻み上げて走ろうと思っていた」という田中選手。その予選で、「苦手意識のあったスタートが、去年に比べて格段に良くなったなと思ったのと、3~5台目のインターバルを落ち着いて刻みに行けた」という好感触を得たことで、決勝も予選と同じイメージで臨んだそう。決勝を振り返って「完璧とは言わないが、しっかりとやりたい動きに、自分の意思で寄せることができたなと思う」と評価しました。

    【アフロスポーツ】
    女子100mハードルは、オリンピックでは東京大会で1カ国3名のフルエントリーを実現、世界選手権においても昨年のブダペスト世界選手権で初めてフルエントリーを果たしました。12秒台ハードラーの数は田中選手を含めて昨年も増えて6名に。パリオリンピックに向けては、資格獲得の条件となる参加標準記録(12秒77)の突破やWAワールドランキングの順位と並行して、日本選手権の順位が大きな鍵となってくる状況です。

    そんななかで田中選手は、「こういう性格なので、国内シーズンで焦りたくなくて(笑)」と、ここまでの段階で海外を転戦して着実にポイントを上積み。「このあとGGP(セイコーゴールデングランプリ)も出場が決まっているので、現時点でおそらくポイントは足りる」状況まで持ってきました。これにより、参加標準記録のクリアは「選考要項では今の私にはマストではない。もちろんそのレベルの記録は出さなければいけないとは思っているが、挑戦的に狙っていくというよりは“ついてくればいいな”という感じ」で捉えていると言い、必要な条件をきっちりと整え、確実に日本選手権で3位以内の成績を残していく戦略をとっています。想定しているタイムを問われると、「昨年のGGPで出した12秒89の自己記録は、寺田さん(明日香、ジャパンクリエイト)についていき、同じリズムで走って出たタイムだった。今年は、“地力でそれくらいは出せる、プラス、ハマればもう少し(タイムが)出る”というのが現実的なラインかなと思う」という答えが返ってきました。

    【アフロスポーツ】
    田中選手に続いたのは、12秒73の日本記録保持者で、広島県出身の福部真子選手(日本建設工業)でした。予選の13秒17(-0.9)から13秒09へとタイムを上げて、ダニエル・ショウ選手(オーストラリア、13秒13)を抑えました。レースを振り返っての感想を問われ、「まだ、眠っていますね」と苦笑いしながら答えた福部選手は、年が明けてから体調面のコントロールが整わず、練習量を積めない期間があり、ようやく走れるようになってきたばかり。しかし、「それを加味すれば、まずまずだと思うし、これからもう3段階くらいはギアが上がりそう」という手応えがつかめたようです。まずは、ゴールデングランプリに向けて、しっかりと状態を上げていく計画です。

    4月20日のダイヤモンドリーグ廈門大会で、日本記録保持者(13秒04)の泉谷駿介選手(住友電工)が内定を決めたことで、“パリ行きチケット”が残り2枚となった男子110mハードルでは、もう1人の日本記録保持者である村竹ラシッド選手(JAL)が、織田記念でシーズンイン。予選を13秒43(-0.7)でトップ通過すると、向かい風0.6mのなか行われた決勝を13秒29で圧勝し、社会人初戦を勝利で飾りました。

    フィニッシュ後に勢い余って前のめりに倒れ込み、水しぶきを上げながら雨に濡れた走路を腹ばいにスライディングするような状況となったことで、一瞬、会場をざわつかせましたが、幸いなにもアクシデントはなし。昨年のこの大会で肉離れに見舞われ、シーズン前半の離脱を余儀なくされた経緯があっただけに、関係者は胸をなで下ろしました。

    【アフロスポーツ】
    「2年連続で、ヒヤッとさせてすみませんでした(笑)」という言葉から始まったミックスゾーンでのインタビューでは、「3台目までに、しっかりスピードとパワーを出していき、中盤でゆったりリズムに乗ろうと思っていた。初戦なので最後までスタミナが持たないかなと考えていたが、思ったよりも耐えることができ、逆に後半からスピードアップしたことで、最後はスピードに耐えきれなくて転んでしまった。思っていたよりも、いいレース運びができたし、次につながる良い初戦となった。最後の“コケ”がなければ、もうちょい良かったのかなと思うけれど…」と笑いながら振り返りました。

    村竹選手に続いたのが、大学での後輩にあたる阿部竜希選手(順天堂大)です。13秒52の自己新記録をマークして、学生歴代9位へと浮上してきました。阿部選手は、大学1年の2022年に13秒台へ突入すると、昨年13秒64まで記録を伸ばしてきた選手。今季は、2~3月にニュージーランド、オーストラリアでの単身合宿を敢行するなかで2大会に出場し、ともに13秒7台で優勝。4月14日の四大学対校では、追い風参考(+3.4m)ながら13秒36の好記録をマークし、上り調子にある様子を示していました。

    【アフロスポーツ】
    「まずはA決勝進出が目標。あわよくばゴールデングランプリに出場できたら…」の目論見で臨んでいたという阿部選手は、「まさか2位で、しかも、こんな天気のなか自己ベストが出るとは、びっくり」とコメント。昨年までは、「勝負がかかるところで、うまく走れない」ことが課題でしたが、「今日は、前にいたラシッドさんを意識することなく、自分の走りに集中できた。気がついたら“あれ、(レースが)終わっている”という感じだった」と振り返り、「1人で海外に行き、合宿したり試合に出たりしたことで、落ち着いて走れるようになった」と自身の成長を実感しました。また、この冬にスプリントが大きく向上し、「(第1ハードルまでの)アプローチで遅れず、焦らずに行けるようになった。今までとは違う持ち味が自分にできている」ことも自信となっていると言います。
    「泉谷(駿介)さん、ラシッドさんと偉大な先輩に比べたら、自分は全然まだまだ。この結果に満足せずに頑張っていきたい。目標は大きく、オリンピック。2人の先輩方に続いて、“3人目”を目指したい」と声を弾ませました。

    今年も雨に苦しんだやり投
    女子は武本、男子は小椋がV

    【アフロスポーツ】
    昨年のブダペスト世界選手権では、男女ともに1カ国3名のフルエントリーを達成した男女やり投。今大会では、金メダルを獲得した北口榛花選手(JAL)は4月27日のダイヤモンドリーグ蘇州大会と日程が重なったため、出場はなりませんでしたが、残る代表5選手を含めて、そのほかにも歴代の世界選手権代表がずらり。豪華な顔ぶれが揃っただけにもかかわらず、優勝記録は男子が79m台、女子も59m台にとどまることに。パフォーマンスに大きな影響を与えるグリップを濡らしてしまう雨が恨めしいコンディション下での試技となりました。

    北口選手を除いて、現役60mスロワー5選手が出場した女子は、昨年のブダペスト世界選手権代表で、アジア選手権金メダリストの斉藤真理菜選手(スズキ)と、同じくブダペスト世界選手権代表の上田百寧選手(ゼンリン)が前半から首位争いを繰り広げましたが、5回目の試技で、オレゴン世界選手権ファイナリスト(11位)の武本紗栄選手(Team SSP)が59m06をマークし、4位からトップに浮上すると、そのまま逃げきってグランプリ初優勝を果たしました。2位には、前半をトップで折り返した上田選手が、6回目で58m68を投げ、4回目に逆転されていた斉藤選手を再逆転。その4回目に58m57を投げて、後半でもいったん首位を奪い返していた斉藤選手は、その後、記録を伸ばすことができず3位という結果になりました。

    後半の“一発”で勝負を決めた武本選手は、「(投げたいという)気持ちが行きすぎて噛み合わず、53~54mの記録が続き、焦ってしまった。ただ、今年は勝負の年。5投目はもう“勢いで行け”と思って投げたら、(やりが)飛んでくれた」とコメント。「前半3本は、まだ“こういうふうに投げたい”とか“こういうやりの軌道がいい”とかが頭によぎって、(記録を)置きにいってしまうところがあった。今回の優勝は自信になったので、次の試合は1本目から勢いで行けるようにしたい」と今回の結果を振り返りました。

    【アフロスポーツ】
    この冬は、「やれることは全部やろう」という思いから、ウエイトトレーニングや苦手な走練習に加えて、栄養士についてもらっての“食トレ”も敢行。食べて身体を大きくすることへのチャレンジは、「背も小さい私は、スピードとパワーしかない」という考えから踏みきったそうですが、「もともとたくさん食べるほうではなかったので、量をたくさん食べるのは、本当につらかった」と言います。

    「たくさんの人に協力してもらったおかげで、身体も大きくなって、パワーもスピードもついてきた。ここから繊細なところを整えていって結果につなげていき、“よかったね”と言えるようにしたい」と武本選手。次戦は、多くの選手がエントリーした水戸招待ではなく、チェコで行われるカテゴリーCの大会に出場の予定。「タフな日程にはなるけれど、少しでもポイントを獲得してきたい。ガツンと投げてきます」と意気込みました。

    男子やり投も、ブダペスト世界選手権に出場したディーン元気(ミズノ)、小椋健司(エイジェックスポーツマネジメント)、﨑山雄太(愛媛県競技力向上対策本部)の3選手に加え、今年3月にニュージーランドで83m37の好記録をマークしている新井涼平選手(スズキ)ほか、80mスロワーが多数出場しました。断続的に雨が降りしきる状況となったなか、1回目に﨑山選手が78m81でリードを奪うと、2回目に長沼元選手(スズキ)が自己記録(79m99、2019年)に迫る79m41を投げてトップで前半を折り返しましたが、4回目に入って記録を伸ばしてきたのが小椋選手。79m72をマークして首位に立つと、そのまま逃げきって優勝を果たしました。

    【アフロスポーツ】
    「雨でグリップが滑ってしまって、5・6投目は記録を伸ばすことができなかった。雨のときは前半からもっと記録を出していけるような技術練習がまだまだ必要だなと思った」と振り返った小椋選手は、「国内は、栃木での大会(77m76)に続いての2戦目だが、全国規模の大会としてはこれが初戦。まずまずの成績だったのかなと思う」とコメント。パリオリンピック出場に向けては、「ポイントをしっかりと取っていくことが第一となる。昨シーズンよりは確実にいい状態で入れているし、競技を優先できるよう職場からも配慮をいただくことができているので、それに応える結果を残していきたい。国内の試合も落とさないという意識で毎試合集中していきたい」と話しました。

    かたや「いったい、どうした?」と心配になる滑りだしを見せたのはディーン選手です。最初の2投が71m台という低空飛行。3回目に75m63を投げて、8位と1cm差の7位でベストエイトに残るという際どい展開となり、5回目でようやく78m04まで記録を伸ばしたものの、トップ3を逆転するには至らず4位で競技を終えました。

    当のディーン選手は「シーズン初戦なので悲観はない」と言いつつも、「4投目までは、ちょっとひどかったので…」と失笑する場面も。記録が伸びなかった要因として「サブ(トラック)で投げて、(身体を)温めきらずに(スタジアムの)中に入ってきたのが今日の悪かったところ。ビルドアップしていく部分が、アップの段階でずれてしまった」ことを挙げました。そして、「出力や身体自体は良い状態にあるので、次に何が起こるかというとケガ。今日は、そっち(を防ぐこと)にフォーカスして、保守的な試合になってしまった」と説明。一方で、「そのなかでも6投を使って、気になっていた(スターティング)ライン際の感覚の練習をすることができた。次のドーハに向けて、いい試合になったと思う」とも振り返りました。冬場のトレーニング自体は、これまで以上に充実して内容が積めているという状況。「今回、実際に試合をしてみて、エラーがかなり出たので、同じ失敗をしないように、これから細かい技術練習をやっていきたい」と、視線は5月10日に行われるダイヤモンドリーグドーハ大会へと向けられていました。

    男子100mは守、男子5000mは吉居、男女三段跳は安立と船田
    学生が4種目でGP優勝

    【アフロスポーツ】
    男子100m決勝は、予選で、東京オリンピック代表の多田修平(住友電工)が負傷により途中棄権、山縣亮太(セイコー、日本記録保持者9秒95)が決勝進出を逃す波乱もあって、大混戦となりました。上位4選手が0.03秒差でフィニッシュするレースを制したのは、予選を全体トップタイム(10秒38)で通過した大学3年の守祐陽選手(大東文化大)。同タイムの鈴木涼太選手(スズキ)を0.002秒差で抑えました。

    男子5000mも、実業団勢を抑えて大学3年の吉居駿恭選手(中央大)が好走。ラストスパートでコスマス・ムワンギ選手(中国電力)を突き放し、セカンドベストの13分24秒06でフィニッシュしています。女子三段跳では、1回目に13m35を跳んでトップでスタートした学生記録保持者(13m81、2022年)の船田茜理選手(武庫川女子大)が、優勝が決まったなか臨んだ最終跳躍で13m53(-0.2)へと記録を伸ばして快勝。また、男子三段跳では、5回目を終えた段階で3番手につけていた安立雄斗選手(福岡大)が最終跳躍で16m46(+0.2)の自己新をマーク。韓国勢2選手を逆転してグランプリ初優勝を果たしています。

    女子100mは、ジョージア・ハリス選手(オーストラリア)が11秒57(±0)で優勝。接戦となった日本人による2位争いは、東京オリンピック4×100mリレー代表の石川優選手(青山学院大)が、ロス瑚花アディア選手(城西高)を11秒77の同タイムながら着差ありで先着しました。このレースには、同じく東京オリンピック女子4×100mリレーメンバーで、昨年、膝の手術から復帰してきた青山華依選手(甲南大)も走っていて、予備予選となったセイコーチャレンジ女子100mから勝ち上がって、8位(11秒96)でフィニッシュ。石川選手・青山選手ともに長く苦しんだケガからの復調を印象づけました。

    このほか、上位3選手が大会新記録となった男子1500mは、グエム・アブラハム選手(阿見AC)が3分39秒17で優勝。館澤亨次選手(DeNA、3分39秒55)・才記壮人選手(富士山の銘水、3分39秒88)が2・3位で続きました。女子1500mは、2019年ドーハ世界選手権5000m代表で、パリオリンピックには1500mで出場を目指している木村友香選手(積水化学)が4分10秒75の大会新記録で快勝。また、アグネス・ムカリ選手(京セラ)が15分04秒71で制した女子5000mは、樺沢和佳奈選手(三井住友海上)が15分25秒30で続き、4月13日の金栗記念(15分22秒04、4位)に続き日本人トップの座を占めています。


    文:児玉育美(JAAFメディアチーム)

    日本グランプリシリーズ2024特設サイト
     クリヤマホールディングス(株)子会社のクリヤマジャパン(株)(以下、「当社」)は、今年度も引き続き、日本グランプリシリーズ「第39回静岡国際陸上競技大会」に協賛いたします。
    当社グループは、「ユニバーサルデザインと融合した、スポーツ・商業施設などの総合床材No.1ブランドを目指す」を事業戦略として掲げています。

     全天候型ゴム製トラック「モンドトラック」及び、体育館用の弾性スポーツシート「タラフレックス」など、世界基準で実績豊富な海外ブランド商品を国内のスポーツ施設や多目的施設にまで幅広く展開しております。

     トップレベルの選手を数多く輩出する「静岡国際陸上競技大会」への協賛を通じて、世界で活躍できるアスリートの強化・育成とスポーツ振興による健康社会の発展に貢献してまいります。

    ■大会概要

    静岡国際陸上競技大会について 

     日本グランプリシリーズは日本陸上競技連盟(JAAF)が後援し、日本全国で開催される陸上競技大会の総称です。その一つとして開催される「静岡国際陸上競技大会」は、オリンピックや世界選手権大会の代表選考を兼ねる重要な大会として位置づけられています。

    開催日

    2024年5月3日(金・祝)

    会場

  • [[放送@live!!] 静岡国際陸上 2024 放送¶第39回静岡国際陸上競技大会 配信 生中継 視聴 無料 2024年5月3日¶*

    【日本グランプリシリーズ】グレード1初戦・広島大会(織田記念)レポート
    日本グランプリシリーズ「第39回静岡国際陸上競技大会」への協賛について
    日本グランプリシリーズグレード1「第58回織田幹雄記念国際陸上競技大会」が4月29日、WA(ワールドアスレティックス)コンチネンタルツアーブロンズ大会を兼ねて、広島広域公園陸上競技場(ホットスタッフフィールド広島)において開催されました。

    TV中継🔴📺👟👉 第39回静岡国際陸上競技大会 2024 生中継

    TV中継🔴📺👟👉 第39回静岡国際陸上競技大会 2024 生中継

    悪天候となった昨年、一昨年に続いて、残念ながら今年もまた競技開始とともに雨粒が落ちてくる状況に。風が強まったり気温が上下動したりすることはなかったものの、終日、肌寒さを感じるコンディション下での戦いとなりました。グランプリ種目は男子7、女子6の計13種目が行われましたが、この影響もあって、パリオリンピック参加標準記録突破のアナウンスを聞くことは叶いませんでしたが、男女1500m、男子3000m障害物では大会新記録が誕生しました。

    三浦、“サンショー”で今季初戦
    五輪内定はならずも大会新で快勝

    【アフロスポーツ】
    この織田記念で、「パリオリンピック日本代表内定!」のアナウンスが流れる可能性がある唯一の種目として実施されたのが男子3000m障害物です。昨年のブダペスト世界選手権で6位入賞を果たした日本記録保持者(8分09秒91、2023年)の三浦龍司選手(SUBARU)がエントリー。日本陸連が定めた選考基準により、三浦選手は今年に入ってから参加標準記録を突破すれば、その時点でパリオリンピック日本代表に即時内定する条件の該当者となっています。朝からの雨模様は変わらなかったものの、スタート時刻の16時55分になっても気温は19.5℃、風の影響もほとんどないなかでのレース。8分15秒00という参加標準記録は、三浦選手の実力であれば十分にクリアが狙える水準とあって、日本国内におけるトラック&フィールド種目内定第1号誕生の期待を集めるなか号砲が鳴りました。

    レースは、スタート直後から三浦選手が飛び出し、2周目から先頭に立ったフィレモン・キプラガット選手(愛三工業)と上位争いを繰り広げていく展開に。1000mを2分47秒(速報値、以下同じ)で通過すると、残り3周の周回で、この2人に唯一ついていた新家裕太郎選手(愛三工業)が置き去りになると、以降は三浦選手とキプラガット選手のマッチレースとなりました。三浦選手がキプラガット選手に並びかけようとする場面もありながらも、2000mはキプラガット選手が前に出て5分36秒で通過し、その後もキプラガット選手のリードで残り1周を迎えます。そこで三浦選手がスピードを切り替えると、バックストレートでキプラガット選手を逆転、ホームストレートで突き放してフィニッシュ。参加標準記録の突破はならなかったものの8分22秒07の大会新記録で、今季の、さらには社会人となって最初の3000m障害物レースを、勝利でスタートさせました。

    【アフロスポーツ】
    三浦選手は、近年では金栗記念の1500mでトラックレースをシーズンインし、この織田記念では5000mに出場し、3000m障害物は5月に入ってから初戦を迎えるパターンが続いてきました。しかし、今年は5月10日に行われるダイヤモンドリーグドーハ大会に出場を予定していることもあり、「自分の勝負勘とかを、国内で試しておこう」という考えから、織田記念は3000m障害物を選択。レース後は、「優勝を目標にしていたので、勝つことができてよかった」と述べ、参加標準記録の突破については、「本腰を入れて(突破を)狙うというわけではなかったが、展開やコンディショニングによってはあるかもしれない」と考えていたことを明らかにしました。レースについては、「最初の1000(m)は余裕があったが、出力を上げたときに、伸びていく感覚がなかった」と振り返り、「(本来であれば、もっと行けるはずの)2000mを過ぎてから、キプラガット選手に苦戦したなという思いがある」とコメント。中盤で想定していた通りに、ペースを上げていけなかったことを課題とする一方で、「そこはレースをすることでスイッチが入ることもある」とも話し、「ここから、ラストのキレを出していけるようにしたい」と次戦を見据えました。

    次戦となるダイヤモンドリーグでは、「タイム(参加標準記録のクリア)を狙っていくのがメイン。(8分)15秒を出す走りができれば、順位もある程度ついてくると思う」と三浦選手。いよいよオリンピックに向けて、全開モードで臨んでいくことになります。

    このほか健闘が光ったのは、3位で続いた新家選手です。上位争いから後れてからもよく粘り、自身初の8分30秒切りとなる8分28秒54をマーク。8分33秒43でグランプリ初優勝を果たした4月20日の兵庫リレーカーニバルに続いて、自己記録を更新しました。

    活況続くスプリントハードル
    女子は田中が連覇、男子は村竹が社会人初戦を制す

    【アフロスポーツ】
    近年、天候にかかわらず好記録が誕生し、「織田記念の注目種目」という位置づけが、すっかり定着した感のある男女スプリントハードル。予選・決勝ともに向かい風基調のなかでのレースとなったこともあり、新記録誕生やオリンピック参加標準記録突破といった華やかな結果は出なかったものの、今年もレベルの高い勝負が繰り広げられました。

    女子100mハードルでは、予選を全体トップタイムとなる13秒07(-0.6)で通過していた田中佑美選手(富士通)が、向かい風0.1mの条件下となった決勝で、13秒00へとタイムを引き上げて優勝。初めて12秒台突入となった前回大会(12秒97、+0.6)からの2連覇となりました。
    「今シーズン国内初レースということで予選は緊張していた。しっかりとスタートから出て、しっかりと(インターバルランニングを)刻み上げて走ろうと思っていた」という田中選手。その予選で、「苦手意識のあったスタートが、去年に比べて格段に良くなったなと思ったのと、3~5台目のインターバルを落ち着いて刻みに行けた」という好感触を得たことで、決勝も予選と同じイメージで臨んだそう。決勝を振り返って「完璧とは言わないが、しっかりとやりたい動きに、自分の意思で寄せることができたなと思う」と評価しました。

    【アフロスポーツ】
    女子100mハードルは、オリンピックでは東京大会で1カ国3名のフルエントリーを実現、世界選手権においても昨年のブダペスト世界選手権で初めてフルエントリーを果たしました。12秒台ハードラーの数は田中選手を含めて昨年も増えて6名に。パリオリンピックに向けては、資格獲得の条件となる参加標準記録(12秒77)の突破やWAワールドランキングの順位と並行して、日本選手権の順位が大きな鍵となってくる状況です。

    そんななかで田中選手は、「こういう性格なので、国内シーズンで焦りたくなくて(笑)」と、ここまでの段階で海外を転戦して着実にポイントを上積み。「このあとGGP(セイコーゴールデングランプリ)も出場が決まっているので、現時点でおそらくポイントは足りる」状況まで持ってきました。これにより、参加標準記録のクリアは「選考要項では今の私にはマストではない。もちろんそのレベルの記録は出さなければいけないとは思っているが、挑戦的に狙っていくというよりは“ついてくればいいな”という感じ」で捉えていると言い、必要な条件をきっちりと整え、確実に日本選手権で3位以内の成績を残していく戦略をとっています。想定しているタイムを問われると、「昨年のGGPで出した12秒89の自己記録は、寺田さん(明日香、ジャパンクリエイト)についていき、同じリズムで走って出たタイムだった。今年は、“地力でそれくらいは出せる、プラス、ハマればもう少し(タイムが)出る”というのが現実的なラインかなと思う」という答えが返ってきました。

    【アフロスポーツ】
    田中選手に続いたのは、12秒73の日本記録保持者で、広島県出身の福部真子選手(日本建設工業)でした。予選の13秒17(-0.9)から13秒09へとタイムを上げて、ダニエル・ショウ選手(オーストラリア、13秒13)を抑えました。レースを振り返っての感想を問われ、「まだ、眠っていますね」と苦笑いしながら答えた福部選手は、年が明けてから体調面のコントロールが整わず、練習量を積めない期間があり、ようやく走れるようになってきたばかり。しかし、「それを加味すれば、まずまずだと思うし、これからもう3段階くらいはギアが上がりそう」という手応えがつかめたようです。まずは、ゴールデングランプリに向けて、しっかりと状態を上げていく計画です。

    4月20日のダイヤモンドリーグ廈門大会で、日本記録保持者(13秒04)の泉谷駿介選手(住友電工)が内定を決めたことで、“パリ行きチケット”が残り2枚となった男子110mハードルでは、もう1人の日本記録保持者である村竹ラシッド選手(JAL)が、織田記念でシーズンイン。予選を13秒43(-0.7)でトップ通過すると、向かい風0.6mのなか行われた決勝を13秒29で圧勝し、社会人初戦を勝利で飾りました。

    フィニッシュ後に勢い余って前のめりに倒れ込み、水しぶきを上げながら雨に濡れた走路を腹ばいにスライディングするような状況となったことで、一瞬、会場をざわつかせましたが、幸いなにもアクシデントはなし。昨年のこの大会で肉離れに見舞われ、シーズン前半の離脱を余儀なくされた経緯があっただけに、関係者は胸をなで下ろしました。

    【アフロスポーツ】
    「2年連続で、ヒヤッとさせてすみませんでした(笑)」という言葉から始まったミックスゾーンでのインタビューでは、「3台目までに、しっかりスピードとパワーを出していき、中盤でゆったりリズムに乗ろうと思っていた。初戦なので最後までスタミナが持たないかなと考えていたが、思ったよりも耐えることができ、逆に後半からスピードアップしたことで、最後はスピードに耐えきれなくて転んでしまった。思っていたよりも、いいレース運びができたし、次につながる良い初戦となった。最後の“コケ”がなければ、もうちょい良かったのかなと思うけれど…」と笑いながら振り返りました。

    村竹選手に続いたのが、大学での後輩にあたる阿部竜希選手(順天堂大)です。13秒52の自己新記録をマークして、学生歴代9位へと浮上してきました。阿部選手は、大学1年の2022年に13秒台へ突入すると、昨年13秒64まで記録を伸ばしてきた選手。今季は、2~3月にニュージーランド、オーストラリアでの単身合宿を敢行するなかで2大会に出場し、ともに13秒7台で優勝。4月14日の四大学対校では、追い風参考(+3.4m)ながら13秒36の好記録をマークし、上り調子にある様子を示していました。

    【アフロスポーツ】
    「まずはA決勝進出が目標。あわよくばゴールデングランプリに出場できたら…」の目論見で臨んでいたという阿部選手は、「まさか2位で、しかも、こんな天気のなか自己ベストが出るとは、びっくり」とコメント。昨年までは、「勝負がかかるところで、うまく走れない」ことが課題でしたが、「今日は、前にいたラシッドさんを意識することなく、自分の走りに集中できた。気がついたら“あれ、(レースが)終わっている”という感じだった」と振り返り、「1人で海外に行き、合宿したり試合に出たりしたことで、落ち着いて走れるようになった」と自身の成長を実感しました。また、この冬にスプリントが大きく向上し、「(第1ハードルまでの)アプローチで遅れず、焦らずに行けるようになった。今までとは違う持ち味が自分にできている」ことも自信となっていると言います。
    「泉谷(駿介)さん、ラシッドさんと偉大な先輩に比べたら、自分は全然まだまだ。この結果に満足せずに頑張っていきたい。目標は大きく、オリンピック。2人の先輩方に続いて、“3人目”を目指したい」と声を弾ませました。

    今年も雨に苦しんだやり投
    女子は武本、男子は小椋がV

    【アフロスポーツ】
    昨年のブダペスト世界選手権では、男女ともに1カ国3名のフルエントリーを達成した男女やり投。今大会では、金メダルを獲得した北口榛花選手(JAL)は4月27日のダイヤモンドリーグ蘇州大会と日程が重なったため、出場はなりませんでしたが、残る代表5選手を含めて、そのほかにも歴代の世界選手権代表がずらり。豪華な顔ぶれが揃っただけにもかかわらず、優勝記録は男子が79m台、女子も59m台にとどまることに。パフォーマンスに大きな影響を与えるグリップを濡らしてしまう雨が恨めしいコンディション下での試技となりました。

    北口選手を除いて、現役60mスロワー5選手が出場した女子は、昨年のブダペスト世界選手権代表で、アジア選手権金メダリストの斉藤真理菜選手(スズキ)と、同じくブダペスト世界選手権代表の上田百寧選手(ゼンリン)が前半から首位争いを繰り広げましたが、5回目の試技で、オレゴン世界選手権ファイナリスト(11位)の武本紗栄選手(Team SSP)が59m06をマークし、4位からトップに浮上すると、そのまま逃げきってグランプリ初優勝を果たしました。2位には、前半をトップで折り返した上田選手が、6回目で58m68を投げ、4回目に逆転されていた斉藤選手を再逆転。その4回目に58m57を投げて、後半でもいったん首位を奪い返していた斉藤選手は、その後、記録を伸ばすことができず3位という結果になりました。

    後半の“一発”で勝負を決めた武本選手は、「(投げたいという)気持ちが行きすぎて噛み合わず、53~54mの記録が続き、焦ってしまった。ただ、今年は勝負の年。5投目はもう“勢いで行け”と思って投げたら、(やりが)飛んでくれた」とコメント。「前半3本は、まだ“こういうふうに投げたい”とか“こういうやりの軌道がいい”とかが頭によぎって、(記録を)置きにいってしまうところがあった。今回の優勝は自信になったので、次の試合は1本目から勢いで行けるようにしたい」と今回の結果を振り返りました。

    【アフロスポーツ】
    この冬は、「やれることは全部やろう」という思いから、ウエイトトレーニングや苦手な走練習に加えて、栄養士についてもらっての“食トレ”も敢行。食べて身体を大きくすることへのチャレンジは、「背も小さい私は、スピードとパワーしかない」という考えから踏みきったそうですが、「もともとたくさん食べるほうではなかったので、量をたくさん食べるのは、本当につらかった」と言います。

    「たくさんの人に協力してもらったおかげで、身体も大きくなって、パワーもスピードもついてきた。ここから繊細なところを整えていって結果につなげていき、“よかったね”と言えるようにしたい」と武本選手。次戦は、多くの選手がエントリーした水戸招待ではなく、チェコで行われるカテゴリーCの大会に出場の予定。「タフな日程にはなるけれど、少しでもポイントを獲得してきたい。ガツンと投げてきます」と意気込みました。

    男子やり投も、ブダペスト世界選手権に出場したディーン元気(ミズノ)、小椋健司(エイジェックスポーツマネジメント)、﨑山雄太(愛媛県競技力向上対策本部)の3選手に加え、今年3月にニュージーランドで83m37の好記録をマークしている新井涼平選手(スズキ)ほか、80mスロワーが多数出場しました。断続的に雨が降りしきる状況となったなか、1回目に﨑山選手が78m81でリードを奪うと、2回目に長沼元選手(スズキ)が自己記録(79m99、2019年)に迫る79m41を投げてトップで前半を折り返しましたが、4回目に入って記録を伸ばしてきたのが小椋選手。79m72をマークして首位に立つと、そのまま逃げきって優勝を果たしました。

    【アフロスポーツ】
    「雨でグリップが滑ってしまって、5・6投目は記録を伸ばすことができなかった。雨のときは前半からもっと記録を出していけるような技術練習がまだまだ必要だなと思った」と振り返った小椋選手は、「国内は、栃木での大会(77m76)に続いての2戦目だが、全国規模の大会としてはこれが初戦。まずまずの成績だったのかなと思う」とコメント。パリオリンピック出場に向けては、「ポイントをしっかりと取っていくことが第一となる。昨シーズンよりは確実にいい状態で入れているし、競技を優先できるよう職場からも配慮をいただくことができているので、それに応える結果を残していきたい。国内の試合も落とさないという意識で毎試合集中していきたい」と話しました。

    かたや「いったい、どうした?」と心配になる滑りだしを見せたのはディーン選手です。最初の2投が71m台という低空飛行。3回目に75m63を投げて、8位と1cm差の7位でベストエイトに残るという際どい展開となり、5回目でようやく78m04まで記録を伸ばしたものの、トップ3を逆転するには至らず4位で競技を終えました。

    当のディーン選手は「シーズン初戦なので悲観はない」と言いつつも、「4投目までは、ちょっとひどかったので…」と失笑する場面も。記録が伸びなかった要因として「サブ(トラック)で投げて、(身体を)温めきらずに(スタジアムの)中に入ってきたのが今日の悪かったところ。ビルドアップしていく部分が、アップの段階でずれてしまった」ことを挙げました。そして、「出力や身体自体は良い状態にあるので、次に何が起こるかというとケガ。今日は、そっち(を防ぐこと)にフォーカスして、保守的な試合になってしまった」と説明。一方で、「そのなかでも6投を使って、気になっていた(スターティング)ライン際の感覚の練習をすることができた。次のドーハに向けて、いい試合になったと思う」とも振り返りました。冬場のトレーニング自体は、これまで以上に充実して内容が積めているという状況。「今回、実際に試合をしてみて、エラーがかなり出たので、同じ失敗をしないように、これから細かい技術練習をやっていきたい」と、視線は5月10日に行われるダイヤモンドリーグドーハ大会へと向けられていました。

    男子100mは守、男子5000mは吉居、男女三段跳は安立と船田
    学生が4種目でGP優勝

    【アフロスポーツ】
    男子100m決勝は、予選で、東京オリンピック代表の多田修平(住友電工)が負傷により途中棄権、山縣亮太(セイコー、日本記録保持者9秒95)が決勝進出を逃す波乱もあって、大混戦となりました。上位4選手が0.03秒差でフィニッシュするレースを制したのは、予選を全体トップタイム(10秒38)で通過した大学3年の守祐陽選手(大東文化大)。同タイムの鈴木涼太選手(スズキ)を0.002秒差で抑えました。

    男子5000mも、実業団勢を抑えて大学3年の吉居駿恭選手(中央大)が好走。ラストスパートでコスマス・ムワンギ選手(中国電力)を突き放し、セカンドベストの13分24秒06でフィニッシュしています。女子三段跳では、1回目に13m35を跳んでトップでスタートした学生記録保持者(13m81、2022年)の船田茜理選手(武庫川女子大)が、優勝が決まったなか臨んだ最終跳躍で13m53(-0.2)へと記録を伸ばして快勝。また、男子三段跳では、5回目を終えた段階で3番手につけていた安立雄斗選手(福岡大)が最終跳躍で16m46(+0.2)の自己新をマーク。韓国勢2選手を逆転してグランプリ初優勝を果たしています。

    女子100mは、ジョージア・ハリス選手(オーストラリア)が11秒57(±0)で優勝。接戦となった日本人による2位争いは、東京オリンピック4×100mリレー代表の石川優選手(青山学院大)が、ロス瑚花アディア選手(城西高)を11秒77の同タイムながら着差ありで先着しました。このレースには、同じく東京オリンピック女子4×100mリレーメンバーで、昨年、膝の手術から復帰してきた青山華依選手(甲南大)も走っていて、予備予選となったセイコーチャレンジ女子100mから勝ち上がって、8位(11秒96)でフィニッシュ。石川選手・青山選手ともに長く苦しんだケガからの復調を印象づけました。

    このほか、上位3選手が大会新記録となった男子1500mは、グエム・アブラハム選手(阿見AC)が3分39秒17で優勝。館澤亨次選手(DeNA、3分39秒55)・才記壮人選手(富士山の銘水、3分39秒88)が2・3位で続きました。女子1500mは、2019年ドーハ世界選手権5000m代表で、パリオリンピックには1500mで出場を目指している木村友香選手(積水化学)が4分10秒75の大会新記録で快勝。また、アグネス・ムカリ選手(京セラ)が15分04秒71で制した女子5000mは、樺沢和佳奈選手(三井住友海上)が15分25秒30で続き、4月13日の金栗記念(15分22秒04、4位)に続き日本人トップの座を占めています。


    文:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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    開催日

    2024年5月3日(金・祝)

    会場